横浜××化計画

2014年2月6日

FAB9で生まれた社会関係資本をもとに「FabCity横浜の可能性を描く」セッションを開催したいと思います。横浜の創造活動をさらに高めたいと思われている企業、NPO、団体の皆さんの参加を期待します。先行するスペインバルセロナの基礎調査を進め、横浜市の現状やデジタルファブリケーション技術進展などの検討を加えて2020年横浜の未来図を描き、市への提案を試みます。

[2014年2月6日のトピック]

これまでのセッションをとおして、FabCity横浜の可能性について様々な面から検討して参りました。その総括として、『横浜××化計画』と題し4つのグループがFabCity横浜の構想を描き、プレゼンテーションを行いました。創造都市ヨコハマにおいてFabには何が可能であるか、各グループが検討し、それぞれの『横浜××化計画』を提案しました。

「横浜Fab Space化計画」

「横浜Fab Space化計画」では、これまでの回のグループワークの成果をもとに、横浜におけるFab Spaceはどのような場であるべきか、参加者に疑問を投げかけつつ提案を行いました。まず、横浜の新しいFab施設でつくられる最終的な成果物はどのようであるべきかということからアプローチし、体験/モノ、実用/非実用、利己/利他の3軸から成果物をマッピングしていきました。次に、前回のレゴを用いたワークショップで提案した具体的なFab Spaceのイメージを振り返りました。そこで提案したFab Spaceは、自分自身のイメージを変えたい人がパトロンとして出資し、集まって来たデザイナーがその人のためにアクセサリーや洋服をFabする施設です。
このようなグループワークの振り返りを経て、Fabにおける利己/利他は両極ではないのではないか、という疑問が生じました。ものづくりには、個人の欲求からつくられたものが社会のためになり、誰かのためにつくったものが自分自身の利益に還元される、というような利己/利他では分けられない領域が存在します。たとえば、出資してデザイナーに自分自身のイメージを創造してもらう行為は、一見パトロンの利己的な行為に思えます。しかし、パトロンのイメージがデザイナーたちによって創造され、そのパトロンが市民として横浜のまちに出て行くことが繰り返されれば、最終的には横浜のまち全体の利益に還元されるのではないでしょうか。歴史的にも、ルネサンス文化の発展は、自身が芸術を楽しむため、という利己的な目的から投資したパトロンによって支えられていました。こうした利己/利他では分けられないものづくりが、FabCity横浜における新たなFabの可能性に繋がるのではないかと考えます。
以上を踏まえ、「横浜Fab Space化計画」が提案するのは、Fab Spaceそのものの在り方から考えるための場です。昔の公民館は、まちの住民全体で考え方を作る場として機能していました。利己/利他では分けられないものづくりによって横浜をよりよいまちに変えていくためには、昔の公民館のようなオープンな場で、市民全体でFab Spaceの在り方そのものから考え、場やものをつくっていく必要があると考えました。現在、ものづくりにおける知識の共有はクローズドな会議によってなされることが多く、ふつうの人がものづくりについて知る機会が少ないことが問題視されています。このような現状を打破するためには、場やものづくりのプロセス自体をオープンにし、Fab SpaceそのものをFabするところから市民全体で取り組む必要があると考えます。

「横浜スタジオ化計画」

「横浜スタジオ化計画」では、映像制作と従来のFabLabを融合させた新たなファブ施設を提案します。この施設では、工作機械を利用して、映像のみならず映像に映りこむものまで制作することができます。横浜の魅力のひとつとして、近未来的な高層ビルや古くから残っている建築、港といった多様な美しい景観が挙げられます。この魅力を活かし、馬車道に位置する東京藝術大学大学院映像研究科の学生をはじめとしたアーティストたちに、横浜のまち全体を映像スタジオとして利用してもらう計画です。
ここで提案する映像制作と従来のFabLabを融合させた新たなファブ施設に関して、「ひと」、「場」、「道具」、「メディア」、「成果物」の5つの観点から構想を練りました。施設の運営に必要な「ひと」は、総合管理人(ディレクター)と現場で働くスタッフ、ワークショップの設計者です。現場で働くスタッフにはSFCなどの学生を起用し、ユーザーのデジタルファブリケーションをサポートします。この施設は、デザイナーやアーティストのような熟達したユーザーから、学生や一般市民のようなデジタルファブリケーション初心者まで、多様なフェーズに居る「ひと」を受け入れる第三の「場」であるべきだと考えています。そのような「場」の実現のために、各ユーザーのスキルに合わせた講習会やワークショップを開催します。施設に必要な「道具」は、大きく分けて映像のなかで使うものをつくるための「道具」と、映像を編集するための「道具」の2種類です。映像のなかで使うものをつくるための「道具」として挙げられるのは、レーザーカッターや3Dプリンター、Shopbotといった一般的なFabLabに用意されている工作機械です。映像を編集するための「道具」は、映像編集用のパソコンやソフトウェア、撮影ブース、スクリーンです。これらの「道具」を利用して作品を制作するためには、教科書となるような「メディア」が必要です。まず、機材の使用方法を説明するために、映像やポスター等の「メディア」を用意します。さらに、過去に施設の利用者が制作した映像やセットを、サンプルとして公開します。この施設で制作される「成果物」は、映像のためにつくったものと、映像作品の2種類に分けられます。映像のために作成したセットなどの作品は施設で保管し、有料で貸し出すことで施設の運営費を賄います。映像作品は、施設内のスクリーンで上映します。
「横浜スタジオ化計画」の最終的な目標は、施設を利用して制作された映像作品を通して、観光地としてだけでなく、制作の場としての横浜の魅力を発信することです。現在、YouTubeやVimeoをはじめとした動画共有サービスが発展し、個人が制作した映像を手軽に世界に発信することが可能になりました。施設で制作された映像作品を公開することにより、全世界に創造都市ヨコハマをアピールすることを目指します。

「横浜海上都市化計画」

都市全体の形状を有機的に変えられるモジュール型海上都市の提案です。この海上都市の特徴は、人口や必要とされる都市の機能に応じて、都市の一部を設計・組立・分解できること、都市を作る過程で生じる素材をリサイクル・生分解によって循環させることです。機能ごとに都市がパーツ化されており、1セル単位で組み立て・分解可能な未来型社会を構想しました。
まず、横浜××化計画の構想を考えるにあたり、横浜というまちの特徴について捉えなおしました。横浜みなとみらい21は、横浜中心部との一体化・強化を目指したウォーターフロント都市再開発部で、東京都心一極集中を避け、昼間人口・就業人口を増加させる取り組みを行ってきました。京浜工業地帯の形成に伴い工業港として発展してきたと同時に、首都圏有数の商業施設としての役割も担っています。さらに、第二次世界大戦後の人口の急速な増加に伴ってベッドタウン化し、優れた住空間としての機能も発達しています。みなとみらい地区は地下に巨大な共同溝を有して、水道・ガス・電気などをまとめて配線することが可能です。さらに、地域冷暖房システムが発達しており、各住戸で室外機など置く必要がないのが特徴です。
既存の海上都市計画の例として、清水建設のGREEN FLOATが挙げられます。GREEN FLOATでは、歩いて行ける半径1kmのコンパクトなアーバンビレッジ規模を1セルと定義し、1セル→1モジュール→1ユニットというかたちで都市が広がっていきます。環境に負荷をかけることなく、自立していける環境新時代の都市モデルをめざし、廃棄物をエネルギーに変換し、再資源化できる仕組みを組み込んでいます。このような海上都市の機構は、横浜都心部との一体化・強化を目指したウォーターフロント都市再開発部であり、東京都心一極集中を避けて昼間人口・就業人口を増加させる、というこれまでの横浜の取り組みと相性が良いのではないか、という発想から「横浜海上都市化計画」を提案しました。
横浜海上都市はそれぞれの機能がパーツ化されており、1セル単位で設計・組立・分解が可能で、分解したモジュールは生分解もしくはリサイクルします。ここで提案するFab施設には、それぞれのモジュールを組み立て・分解し、リサイクルするための3Dプリンター、アセンブラ、分解機、シュレッダー、リサイクル機が完備されています。普段は各セル内で、道路の補修など地域に必要なものづくりを行います。そして、災害時やセルを増設・分解する際には、各セルに散らばっていたFab機械を一箇所の地域に集め、生産能力を集結させます。作業が終了すると、各セルにFab機械が戻っていく仕組みです。東日本大震災以降、災害対策の重要性が再認識されており、被災地にいかにして迅速に生産能力を集中させるかというのは大きな課題の一つと言えます。「横浜海上都市化計画」は、災害対策におけるFabの可能性を拡張させる提案です。

「横浜市民総ふぁぶったー化計画」

「横浜市民総ふぁぶったー化計画」が提案するのは、FabLab標準機材を積みこんだ移動式FabBusです。横浜市営バスが40万円弱で売却している中古バスを活用し、人が固定された場所に行くのではなく、場所が人の居るところに行くという新しい公共施設です。この計画では、
1. 横浜市民370万人をFabする人=「ふぁぶったー」にする。
2. FABディレクター/マネージャーの生活を成り立たせる。
3. 横浜を世界一のFabCityにする。
4. 人口減少時代の、新しい移動型の「公共的な」施設のモデルを確立する。
という4つのミッションを掲げています。
FubBusはバス1台につき2名のDirector(大型バスの運転手も兼ねる)、数名のボランティアStuffで運営します。従来のFabLabのような固定された施設の運営には、人件費や家賃など多額の経費が必要ですが、FabBusは、それぞれの施設や組織等が、1回程度のFABLAB開催の費用を負担することで、利用者は基本的に無料で利用できます。仮にFABLAB開催(25000円×8カ所/月)、地域会員の利用料(10000円×10カ所/月)、法人会員の利用料(30000円×10カ所/月)、併設カフェの収入(2500円×10カ所/月)と想定すると、Directorは1人1月20万円程度の収入を確保できる計算です。
横浜市民370万人を「ふぁぶったー」にし、横浜を世界一のFabCityにするために、FabBusを伝道師として毎年施設数倍増計画を提案します。FabBusからスタートし、FABが定着した地域には小学校の空きスペース等を活用して本格的なFAB施設を創設します。2019年には10万人の地域に1つのFAB施設が完備され、2022年には横浜市立の小学校342校にFabSpaceが誕生、1万人の地域にひとつのFAB施設が実現する計画です。そして、2024年には横浜市の全中学・高校でFAB教育を導入することを目標としています。
さらに、人口減少時代における新しい移動型の「公共的な」施設モデルの確立に向け、「コミュニティ活動支援事業者認定制度」の創設を提案します。横浜市に多い丘の上の低層住居専用地域などでは、気軽に寄ることのできるカフェのような場所がありません。また、大通公園など都心部の公園で日常的に活用されていない公共空間が多く存在し、公共空間を賑わいづくり、都市の活性化に活かすことが希求されています。そこで、FABLABをはじめとしたコミュニティ活動を支援する目的の事業者を認定し、公園等の公共空間を柔軟に利活用できる制度を創設します。
「横浜市民総ふぁぶったー化計画」は、関内駅付近から開始していくことを想定しています。現市庁舎の移転が検討されており、市庁舎移転前から関内駅周辺のまちがポジティブに変わっていくことを発信していく必要があるからです。具体的には、取り壊しが予定されている教育文化センターのエントランス部分を残し、臨機応変に「場」づくりができるFabBusを活用して関内駅周辺の街が変わっていくことを発信します。このようにFabBusの普及を推進することにより、市民が作ることと買うことを選択できる様になり、横浜市民総ふぁぶったー化計画が実現し、横浜市をものづくりする環境・人と共に世界一のFabCityとすることを目指します。

今後の活動の展望について

以上のプレゼンテーションを踏まえ、今後のFabCity横浜の可能性を展望するためには、実証実験が不可欠であると考えます。現在、総務省情報通信政策研究所が開催する「『ファブ社会』の展望に関する検討会」においても、デジタルファブリケーション機器の普及による新しい「ものづくり」の動きが社会にどのような影響を与えるか検討がなされており、そのなかでも、実証実験の必要性が示唆されています。今後は横浜市を舞台に、上記の『横浜××化計画』で提案されたような、多様な利害関係者が集うFab施設を複数運営し、様々な人や機関の協力を得ながらプロジェクトを推進していく必要があります。プロジェクトを推進するなかで、新しいデザイナーの職能がどのように規定しうるかを展望し、今後の人材育成に繋げていきたいと考えています。
また、Fabという言葉を使わずにFabを語ることの重要性も示唆されました。近年、3Dプリンター等に代表されるデジタルファブリケーション機器の普及が進行しているものの、Fab社会とはどのようなものなのか、Fab社会は本当に到来するのか、ということに関してまだ疑問を持っている人が大半であると思います。そのような人たちにFabCity横浜の可能性について知り、考えてもらうためには、今社会で起きていることや今後社会で起こりそうなことを、Fabという一言ではなく、具体的な活動から自分の言葉で語る必要があると考えます。来年度の活動では、実証実験をとおしてFabCity横浜の可能性を展望するとともに、Fab社会に疑問をもつ人々に、具体的な活動をとおしてFabを語る方法についても検討していきたいと考えています。

< <