Fab City 横浜の Fab 施設を考える

庵原 悠

2014年1月16日

FAB9で生まれた社会関係資本をもとに「FabCity横浜の可能性を描く」セッションを開催したいと思います。横浜の創造活動をさらに高めたいと思われている企業、NPO、団体の皆さんの参加を期待します。先行するスペインバルセロナの基礎調査を進め、横浜市の現状やデジタルファブリケーション技術進展などの検討を加えて2020年横浜の未来図を描き、市への提案を試みます。

[2014年1月16日のトピック]

FabCity横浜の可能性を考えるにあたり、今回は、オフィス環境の構築における新しい取り組みである、Future Work Studio “Sew”を紹介し、フューチャーセンターやサードプレイスに関する視点を交えながら、横浜Fab CityのFab施設がどのようなものなのか、その可能性を考えていきます。当日使用した、株式会社岡村製作所の庵原悠さんのプレゼンテーション資料も添付してありますので、そちらもあわせてご覧ください。

イントロダクション

1945年、横浜市磯子区岡村町で操業を開始した岡村製作所は、国内初のトルクコンバータ開発に成功し、国産初のFFオートマチック車「ミカサ」を創造するなど、最先端の技術を培ってきました。近年では、創業以来培ってきた、ハード・ソフトのノウハウをベースにして、1人ひとりが「豊かさを実感」できる環境の実現を目指し、事業を展開しています。その1つが、オフィス環境の構築です。情報技術やマルチメディア化の発展に伴う様々なソリューションが求められているという背景を踏まえ、多彩なハードとソフトで新しいワークスタイルを重視した魅力あるワークプレイスを提案しています。

フューチャーセンター

フューチャーセンターとは、企業、政府、自治体などの組織が中長期的な課題の解決を目指し、様々な関係者を幅広く集め、対話を通じて新たなアイデアや問題の解決手段を見つけ出し、相互協力の下で実践するために設けられる施設です。施設は、一般に、研究スペースや学習スペース、ミーティングスペースなどで構成されています。
フューチャーセンターでは、所属組織や立場の異なる多様な人たち、例えば異なる省庁のスタッフや企業人、市民などが集まり、普段従事している組織内では決して構築されることのない関係性を形成し、横断的な対話を行って意思決定や理解の共有が行われます。扱うテーマは、行政的な政策立案、事業戦略策定、製品開発などをテーマなど、多岐にわたります。発祥の地である欧州では、主に、官主体で、政策立案や意見収集を目的に、長時間(数日間)行われます。一方で、日本では、民主体で、交流の中からイノベーションを生みだすヒントを得るという観点で、短時間(2時間〜半日)で行われる傾向にあります。

Future Work Studio “Sew”

オフィス環境の構築に関する、新しい取り組みの例として、Future Work Studio “Sew”が挙げられます。 Future Work Studio “Sew”は、Office Laboとして、新しいワークスタイルにおいて、外部との接点をつくり出す、アンテナとしての機能を模索しています。その中で、閉じた交流の場である社内サークル活動が、外部との接点を持つセミナーやワークショップに変化し、最終的にはこれからの問題解決を担うフューチャーセンターへと発展することを狙っています。
Future Work Studio “Sew”は、誰もが持っている「面白い」をつないで今まで思いつかなかったモノやコトを生みだしたり、ひとりでは解決できなかった問題をみんなの知恵を出し合って解決するための、仕組みであり、空間であり、活動です。“Sew”というネーミングは手芸の「縫う」という意味から来ています。たくさんの「面白い」はパーツとしてSewという空間に縫い付けられ、1つの大きな規模に、そして作品に仕上がっていきます。企業や組織の枠を超えて様々な活動に加わっていきたい。なにか自分の特技を活かして社会のために出来ることはないか。Sewに集まるメンバーはそれぞれの期待を持っています。

サードプレイス

都市には都市居住者にとって生活上欠かせない二つの居場所に加え、居心地のよい三番目の場所「サードプレイス」が必要であると考えられます。生活上欠かせない二つの居場所とは、ファーストプレイスである家、セカンドプレイスである職場や学校のことを指します。サードプレイスでは、心をニュートラルにし、ありのままの自分に戻ることができます。色々な人との出会いの場や、知的フォーラム、個人のオフィスとしても機能し、いつでもアクセスできるローカルな場所に存在しています。
この「サードプレイス」という考え方は、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグ(Ray Oldenburg)によって、1989 年の著書『The Great Good Place』にて、都市の魅力を高める概念・哲学として提唱した。「都市には都市居住者にとって生活上欠かせない「二つの居場所」に加え、居心地の良い三番目の場所「サード・プレイス」が必要であり、「サード・プレイス」の在り方が都市の魅力を大きく左右する。『The Great Good Place』の中にはこのような定義がなされています。

——生活上欠かせない「二つの居場所」とは、ファスト・プレイス(第一の居場所)である家、セカンド・プレイス(第二の居場所)である職場や学校である。「二つの居場所」の重要性は、全ての国・都市で十分に認識されており、整備も進んでいる。しかし、「サード・プレイス」の必要性とその在り方は国によって大きな差がある。アメリカの都市は西欧の歴史ある都市と比べると、この「サード・プレイス」が見劣りし、これこそアメリカの都市魅力の弱点である。フランスやイタリアの「カフェ」、イギリスの「パブ」は西欧の「サード・プレイス」の代表事例である。西欧のカフェやパブには、アメリカの飲食施設には存在しない“ゆとり、活気、コミュニティ”があり、市民の多くがそこを「憩いと交流の場」、即ち「サード・プレイス」として毎日のように利用している。この「サード・プレイス」の概念を表すキーワードとしては「スロー」が相応しい(Ray Oldenburg,1989)。

2013年7月26日に、Future Work Studio “Sew”にて、「サードプレイス」運営をめぐる、知恵の共有&交換会である、第一回サードプレイス会議が開催されました。本会議では、東京都美術館「とびらプロジェクト」、慶應義塾大学 「芝の家/三田の家」下北沢のシェアオフィス「The Association」岡村製作所からは「Future Work Studio “Sew”」に関して、それぞれのサードプレイスとしての実践を共有しました。
まず1つめの、東京都美術館「とびらプロジェクト」は、アートを介したコミュニケーションを促進し、オープンで実践的なコミュニティの形成を目指すプロジェクトです。美術館での体験が、人々にとってこれまでよりも深められ、新たなコミュニケーションを生むきっかけになることを目指しています。「とびらプロジェクト」の名称は、東京都美術館の略称の「都美(とび)」と、アートを介して開かれるさまざまな世界への「扉」に由来しています。美術館のある暮らしの中でのさまざまな体験の質を深め、共有する場を支え、アート・コミュニティをつくる実践を行っています。本プロジェクトでは、美術館がサードプレイスとして機能することで、美術館を利用していなかった住民を含めて、地域全体との新たな関係性を探索していると言えます。
次に慶應義塾大学の取組みである芝の家は、港区と慶應義塾大学が共同で運営する、コミュニティづくりの活動拠点です。昭和30年代にあったようなあたたかい人と人とのつながりの創世をめざす事業が、港区芝地区総合支所の進める「昭和の地域力再発見事業」です。「あたたかい人と人とのつながり」とは、子どもがのびのびを遊び、お年寄りが安心して暮らせるように、まちに住み働く人たちがお互いに支えあえる関係のことを指します。芝の家では、こうした暮らしのあたたかさを育んでいくため、子ども、大人、お年寄り、住民、在勤、在学者、だれでも自由に出入りができ、共にまちを考え創ることのできる場を提供しています。
三田の家は、慶應義塾大学教養研究センターの研究プロジェクト、学術フロンティア「超表象デジタル研究プロジェクト」の1つ「インター・キャンパス構築研究」の一環として始まりました。その設立の背景として、学生の限られた社会関係に対する問題意識があります。ここ数十年、学生たちと地元の商店街との関係が稀薄になり、学生街らしい店や雰囲気が失われつつあります。また、キャンパス内においても、異なる学部の学生同士、あるいは外国人留学生と日本人学生、一般学生と通信教育学部の学生、学生と教職員などが、自由に出入りし交歓し創造的な関係性を紡ぎだしていく、そうした場がほとんどありませんでした。そこで、キャンパスを、内外にひらくために、異文化・異分野間の文字通りのインターフェイスとなる場=「インター・キャンパス」を構想し、それを実現すべく、三田商店街と恊働しながら、三田の家を設立しました。
三田の家では、学生、教職員、留学生、地域の住民、商店主、在勤者たちが、日頃の肩書きから解放され、出会い語り合い学び合いながら、自分たちの手とアイデアで、この「家」を”作って”いきます。通常、あらゆる社会的な空間には、決められた用途がありますが、この三田の家には、前もって決められた用途がありません。その”無目的スペース”を利用する人は、自らの用途と役割を”発明”する必要があります。そのような創造性がたえず交錯し、ユニークな企画・実践が生起していく場が、三田の家です。芝の家、三田の家のプロジェクトでは、大学が学外拠点としてサードプレイスを設立し、その地域において、普段異なる環境に身をおく人同士の交流を促進する試みを行っていると言えます。
次に、「The association」は、東京・下北沢に拠点を構えるシェアオフィスです。人と人をつなぎ、ビジネスや地域に対する可能性に挑みカタチにするというコンセプトの元、様々なプロフェッショナルが集まる共創の場として機能しています。運営会社・株式会社スマートデザインアソシエイションの社員が同所をオフィスとして利用するほか、デザイナー、プログラマー、映像クリエーター、製品プロデューサー、コンサルタントなど、多種多様な人材が集います。また、2013年に発足した“下北沢クリエイティブ会議”と連携するなど、地域活性化に貢献しています。本プロジェクトでは、シェアオフィス内で多種多様な人同士のつながりが生まれ、そのつながりが地域に波及した例であると言えます。
Future Work Studio “Sew”は前述の通り、Office Laboとして、新しいワークスタイルにおいて、外部との接点をつくり出す、アンテナとしての機能を果たします。本プロジェクトでは、オフィスの一部がサードプレイスとして機能することで、 普段の仕事環境では得られない、人のつながりを生みだし、その交流の中から、これからの問題解決のヒントを得る、フューチャーセンターとしての機能を模索しています。

サードプレイスの可能性

これらの実践の中で、サードプレイスの構築、利用に関して、次の様な知見が得られました。まず、サードプレイスを構築するフェーズでは、目的を満たす場をつくるという明確なゴールがあります。そのため、場の構築が完了するまでは、進捗状況が成果として見えやすく、モチベーションを保つことができます。一方で、サードプレイスを利用するフェーズに入ると、その場を維持することが目的になる場合が多くなります。そのため、サードプレイスを構築するフェーズに比べて、活動に対する成果が見えにくく、長期間に渡り参画するモチベーションを保つことが難しくなります。この様に、サードプレイスには、場をつくった後、それを長く利用し続けるインセンティブが低いという課題があります。
では、構築したサードプレイスを、その後も利用し続けるには、どのような工夫が必要なのでしょうか。まず1つ目は、利用者が無理のない範囲で楽しくサードプレイスの活動に参加できるようなファシリテーションが必要です。次に、2つ目は、サードプレイスの場をデザインし過ぎずに、後から利用者が用途に応じてアレンジする余地を残すことが重要です。アレンジする際にも、完璧に創りあげることを目的とせず、そのプロセスにおいて得られた成果に焦点をおきます。また、3つ目として、サードプレイスでの活動を認知していない、もしくは、認知はしているが参加したことない人々のもとに直接出向くことで、幅広い層の意見やアイデアを収集するとともに、サードプレイスでの活動について発信していくことが大切です。最後に、4つ目として、活動を細かくアーカイブに残し、数値化できるものはそのデータを蓄積することで、成果を見えやすくする工夫も必要です。

横浜市FabCityのFab施設を考える

Future Work Studio “Sew”では、「ミッションよりも、”その場に居合わせた人がすべて”方式で」をモットーにしています。「何かのために」という働き方を続けていくと、「現状を維持するため」や「君の代わりはいくらでもいる」という状況に至ることも考えられます。「冷蔵庫にあるもので料理をつくること」と同じように、そこに居合わせた人と何ができるか、そもそも自分たちは何が好きなのだろうかといったことをスタートにして「自分たちの仕事」をつくることが必要であると考えます。それは、自己目的化、自己完結的な活動(コンサマトリー)であると言えます。

グループワーク

慶應義塾大学SFCソーシャルファブリケーションセンターの学外拠点である北仲Brickにおいて、 “その場に居合わせた人がすべて”方式で、「横浜市FabCityのFab施設を考える」ワークショップを行いました。 授業に集った、学生、教員、社会人の方を、いくつかのグループに分け、ファブ施設のアイデアを考案しました。それはどんな第3、第4の場であるのか、社会とどのような関係性を持っているのか、どのようなコンサマトリーが生まれるのか、これらの点を踏まえて、ファブ施設のアイデアを考案し、そのアイデアについて、レゴブロックを使ったプロトタイピングを行いました。

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