FABなおみせのしくみを考える

水野大二郎

2013年12月12日

FAB9で生まれた社会関係資本をもとに「FabCity横浜の可能性を描く」セッションを開催したいと思います。横浜の創造活動をさらに高めたいと思われている企業、NPO、団体の皆さんの参加を期待します。先行するスペインバルセロナの基礎調査を進め、横浜市の現状やデジタルファブリケーション技術進展などの検討を加えて2020年横浜の未来図を描き、市への提案を試みます。

[2013年11月28日のトピック]

FabCity横浜の可能性を考えるにあたり、FABなお店の仕組みを読み解くことで、ふつうの人がものづくりに参加するための環境を整備する新しいデザインあり方について議論しました。当日使用した、慶應義塾大学環境情報学部の水野大二郎専任講師のプレゼンテーション資料も添付してありますので、そちらもあわせてご覧ください。

FABなおみせのしくみを考える

今日は、みなさんがよく利用する「FABなお店」のしくみについて考えてみましょう。
身近な例であれば、セルフうどんもFABなお店のひとつとして考えることができるはずです。用意されたたくさんの天ぷらから好きなものを選択し、自分なりのうどんを完成させていくその仕組みから、パーソナルファブリケーションを考えることは果たして可能でしょうか。他にも、藤沢にある地域にあるミシン専門店がの母親を集めて洋裁教室が存在します。横浜にもデジタル工作機械を多く設置した市民工房ファブラボ関内がオープンしました。これらのFABなお店に関わる人や場やモノから、ふつうの人がものづくりに参加するための環境を整備する新しいデザインのあり方について議論しましょう。

ふつうの人がデザインに参画する仕組みとしてのマスカスタマイゼーション

FABなお店は、わたしたち個人のつくりたい欲求を支援する仕組みを設計していますが、その支援の方法にも様々なかたちがあるはずです。完全にユーザーにデザインを託す「一人でできるもん」のレベルから、カスタマイズ可能な「メニュー」を提供するレベル、あるいは明確な「規格・基準」を設計するレベルといった多様なグラデーションが考えられるでしょう。FABなお店の仕組みの背景には、こうしたマスカスタマイゼーションと呼ばれる理論があるのです。大量生産・大量消費のシステムにおいて想定されている受動的な消費者だけではなく、能動的な消費者、更には生産する消費者を標準に合わせたサービスのあり方です。当然、消費者のレベルによって、デザインする人やモノも変化するでしょう。

FAB可能な環境をデザインするメタデザイナー

また、FABに携わりたいと思っているユーザーのために、ものづくりのための環境を整備する新しい職能が表れています。具体的には、ファブラボ鎌倉代表の渡辺ゆうかさんのように、デジタル工作機械を駆使しながら、ファブラボを拠点に地域住民と共にものづくりに従事するような人が新しいデザイナーにあたるでしょう。しかし、更にものづくりへのモチベーションの低い「受動的な消費者」がFABに参加できるよう、ものづくりのハードルを下げるには、デザイナーはどんな仕組みを用意すれば良いでしょうか。
そこで、『オープンデザインーー参加と協創から生まれる「つくりかたの未来」』の「デザインのリデザイン」で紹介されている「メタデザイナー」を紹介します。著者のJos De Mulは、メタデザイナーの役割は、3つの段階において、スキルの無いユーザーを支援することであると述べています。ひとつめの「インプット」の段階では、ふつうの人が利用可能な素材を用意します。次に「プロセス」においては、参加の敷居を下げたものづくりの場を設計します。最後に「アウトプット」の段階では、ライセンスを用いて他のユーザーが使用可能なオープンな共有財を整備しものづくりの連鎖を誘発するのです。

ディスカッション

マスカスタマイゼーションとメタデザイナーの話を踏まえ、より多くの人々がFABに関わるために、デザインは何ができるのかについて議論しました。

成果物

最終的な成果物はどのようにあるべきかついて議論がなされました。
まず、Jos De Mulによるメタデザインの定義から、3つの問題点が挙げられました。
1,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスなどの拡大によって、オープン化は進行しつつあるが、アウトプットのオープン化に偏重している。
2,ものづくりにおいては、しばしば知識の共有はクローズドな会議によってなされるため、ふつうの人がものづくりについて知る機会が少ない。
3,ものづくりのプロセスがふつうの人にとってブラックボックス化しているため、 
以上の問題点から、アウトプットのみならず、プロセスやインプットを包括的に捉えた上で成果物を考える必要性が明らかになりました。ふつうの人でもプロセスについて知ることができるような工場見学などの仕組みや、ものづくりについて学ぶことができるビギナー向けサービスの更なる拡大など、よりものづくりをオープン化していく必要があるのではないかという具体案も参加者の方から出ました。更に、体験/モノ、実用/非実用、利己/利他など、成果物を多元的に捉えるべきだという意見もありました。

道具

まず、道具、機械が混同される傾向があるという問題点が挙げられました。ものづくりに使用される道具や機械は様々な種類や用途があり、ユーザーにとって全てを把握するのは困難でしょう。とはいえ、はさみやはんだごてといったローテクな道具から、3Dプリンターやレーザーカッターなどハイテクの道具を、レベルに即して、組み合わせて使用することが求められます。組み合わせによる使用を促すことが、ユーザーのモチベーションにつながるのではないかという意見が出ました。また、道具の組み合わせの「見取り図」が描ければ良いのではないかという課題も議論されました。

人・職能

ものづくりの初心者から上級者までFABを楽しむにはデザイナーはなにができるのかについて議論しました。
クラフトの講習を受けた参加者の方と、キッチンの場を貸し出しするレストランであるセルフキッチンに行った参加者の方を事例に、家族のアナロジーで職能を考えました。
・おふくろ:初心者に基礎的なスキルを教える役割を担う。ものづくりの現場では癒し的な存在でゆるやかなコミュニケーションでハードルを下げてくれる。
・おやじ:ものづくりの場を設計する。ルールやマナーをつかさどり、状況を支配して、不足や欠陥を補う役割。基礎技術だけではない楽しみを期待する上級者に対応する。
・きょうだい:初心者のロールモデルとなる身近な役割。初心者や上級者にとって有益な情報を適宜インターネットなどを使用して発進する。
議論では、ファブラボのようなものづくりの場の番頭に必要な職能を家族をモチーフにして、ペルソナを描きました。ものづくりを持続的に維持していく際に、どのような仲間を見つけるか、どのような人とパーティを組むかという点で示唆に富む話がなされました。

メディア

議論においては、3種類のメディアのかたちが提案されました。
1,説明書:初心者がものづくりに従事する際の教科書としての役割をもつもの。
2,プロセス指示:ルールやプロセスが明示された表示や看板など。
3,サンプル:
とくに「サンプル」は、ユーザーの主体性を拡大させることができるのではないかという意見がありました。展示されたサンプルをユーザーが見ることで「自分もつくれるのではないか」「自分もつくりたい」といった思いを促す「物語性」について議論がなされました。

より多くの人がものづくりに参加できる場について議論しました。
コスプレイヤーのイベントやニコニコ動画などを事例に考えてみると、結果だけではなくプロセスに参画することがユーザーにとっての付加価値になっていることがわかります。地域や近所の住民と交流をしたいために、専用のブログを開設し、ものづくりの受注を受ける方の事例も紹介されました。「参加」や「交流」というキーワードから、すでにあるものを選択し、つくることは委託する仕組みからなる、ものづくりのハードルを下げた場が提案されました。ものづくりの場について考えるには、そこで起きるコミュニケーションの在り方や対価とコストの関係を考慮に入れる必要性が議論されました。